蒼き花 散りて星
〜 星生まれの咏 〜

0.序

 人の世を、『神聖五伯しんせいごはく』と呼ばれる五人の神が創造してまだ間もない頃、天には月と太陽だけが在った。
 夜空を明々と彩る数多の星々は未だ無く、恐ろしいまでの闇空が遥か天上に広がっていた。
 その懐に禍々しき災いのすべてを呑み込んでいるかのような、ただひたすら暗い空。見る者に怖れを抱かせずにはおかない真の闇。
 ひそやかに夜空に掛かる月の光さえも、そんな真闇の前では無力に等しかった。
 そんな深淵の闇にも似た夜空を部屋の窓から見上げていた少女は、そっと毛布をかきあわせ、うずくまるように唇を噛んだ。

 ―― 夢など、見るものではない。
 彼女はそう言って、かたくなに横を向く。

 ―― 夢がなければ人は生きられない。
 青年は寂しげな笑みを浮かべ、彼女に言った。
 どこまでも静かな、そして優しい瞳を少女に向けて ―― 。

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2003.7.13 up