Misty Night |
「……あれは魔性の生き物だろう。なぜ、いつまでもここに置いておくんだ!?」 姿は見えない何者かの耳をはばかるように、激昂を必死に押し殺した不自然にしわがれた男の声が苦々しく部屋に響いた。 「なんのことです?」 いきなり訪ねてきた知人にお茶を入れ、ようやく自分もテーブルについた青年は、その突然の言葉にきょとんと目を丸くした。 「何ってこの間ここにいた……赤い目の男だよ。今も屋敷のどこかに居るんだろうがっ」 「だから、何を怒っているんです? 彼があなたに迷惑をかけたわけでもないでしょうに」 赤い目の、と言うときだけ声を落とし、それでも詰問するように自分に詰め寄ってくる知人に、青年はゆうるりとお茶を飲みながら応え、可笑しそうに笑う。 「それに、ここは聖なる神の御座します教会の敷地内。真に彼が魔に属する者であったなら、あんなにも普通にして居られるわけがないでしょう」 青年はまことしやかにそう言って、おかしな言いがかりをつけてくる知人に対し、大げさに頭を振って見せた。 その動きにあわせるように、背の真ん中でゆったりとひとつにまとめられた長い焦茶色の髪が、黒い衣の上でふさりと揺れる。 横に逸れて自分の視界から隠れた青年のその瞳がどこか蔑みに似た眼光を宿していることに、怒っていた男は気が付かなかった。 「けど、あいつの目を見れば一目瞭然だ。深紅の瞳なんて、人間じゃない。センリさん、あんたはだまされてるんだ。いつか寝首を掻かれるぞ」 仮にもこの街の教会を預かる聖職者のくせに、魔の者と親交を得るどころか一緒に住まわせるなどと酔狂にすぎると、男は苦虫を噛み締めた。 町の教会に隣接するように建てられたセンリの住む屋敷。そこで、深紅の瞳の青年を見かけたものが何人もいる。自分もその中の一人だ。 今までずっと自分たちにとって心の支えであった聖職者のセンリが、人の不安と恐怖の象徴ともいえる魔の存在に心を許したのだと、そう思うだけでもおそろしい。 「ご忠告は、ありがたく頂戴しておきますよ。まあ、その心配は杞憂にすぎませんけれどね。さあ、ダナーさん。もう遅い。お気をつけてお帰りください」 センリはひんやりと微笑みながら扉を開けて、望まぬ客人に退出を促す。まったくもって、人は度し難い。真の魔性というのは、ああいう輩の心根のことだ。 センリは男を丁重に、しかし無理やり追い出すと軽く溜息をついて微苦笑した。 「聞こえていたのでしょう? でも気にしないことです。私もシエナもおまえが好きで、ここに居てもらっているのだから」 隣の部屋のソファに寝転ぶようにまどろんでいた青年に、センリは声をかける。眠っているように見えても、しっかり意識があることはすぐに分かった。 「俺が気にするわけないだろ」 むくりとソファから体を起こし、深紅の瞳の青年は不遜な笑みをその端正な口許に浮かべた。 「ふふ。だと、いいんですけどね」 センリはくすりと笑い、ふんっと目をそむけた友人の顔を覗き込む。 「そうそう。さっきシエナが呼んでいましたよ。風で洗濯物がさらわれて屋根の上に乗っちゃったから取って欲しいって。もう外は真っ暗だから彼女には取りに行かれませんからね」 「シエナが? ったく、おまえたちくらいだぞ。ヴァンパイアをこき使う人間なんてな」 溜息混じりに青年はぼやいてみせる。 本来ならば自分たち魔族は人間など歯牙にもかけず、良くて玩具や食料としかみなさないものだと嘯いて、けれどもどこか楽しそうに、シエナのもとへ行くために立ち上がった。 「おまえは魔に属する者としては育ちが悪かったんですよ。私やシエナにしてみれば、とても喜ばしいことだけれどね」 「ふん。なに言ってんだか」 くすくすと笑うセンリに深紅の瞳の青年は軽く肩を竦めてみせると、腰までおおうほど長く伸ばした漆黒の髪を揺らすように、奥の部屋へと消えていく。 聖職者であるセンリと妹のシエナ。そしてヴァンパイアである自分。三人の奇妙な暮らしは、彼にとってどういうわけか真に和むことの出来る空間だった。 柔らかな輝きを宿した二人の ふと、早朝に目が覚めてしまったので独り散歩に出掛けていたリュカは、突然の雨に降られ、慌ててレイフォードの屋敷へと戻って来た。 いつもならこの早朝散歩もレイフォードを叩き起こして一緒に付き合ってもらっているところだったけれど、リュカが目覚めた時、既に彼の姿はどこにもなかった。 だから仕方なしに一人で出掛けたのに、途中でこんな雨に降られてしまったのだ。 レイフォードが一緒にいれば外套の中に避難させてもらえたのにと、ぶつくさ勝手なことをぼやきながら、リュカは屋敷の中に入った。 「うわあっ!」 とたんに襟首をつかまれて、リュカは間抜けな叫び声をあげる。 そして自分を摘み上げる者を見上げると、リュカはこれ以上はないというくらいに頬を膨らませた。 自分の襟首をつかんでこちらを見下ろしていているのが、十二・三歳かと思える少年の姿をした、けれどもその正体はこうもりというレイフォードの使い魔だったからだ。 「なんだよ、ダストー!!」 レイフォードにならともかく、こんなやつに動物扱いされるのはごめんだと、リュカは宙に吊り上げられたまま手脚をじたばたさせた。 「なんだはこっちのセリフだよ。おまえ、その水浸し泥だらけのままで部屋に入るつもりだったんだろう。このバカ聖獣!」 憎たらしく片方の眉を上げ、ダストは純白のリスにも似た動物をひと睨みする。雨でぬかるんだ道を走ってきたのだろう。その白い身体には泥水がたっぷり吸い込まれ、まるで掃除後のモップのようだ。 「まったく。レイフォード様のお屋敷を汚すなよ。おまえが掃除するならまだしも、後片付けをするのは僕なんだからな」 ダストは憤懣やるかたないといった様子で吐き捨てると、まるで汚れ物でも扱うようにさっさとリュカを流し台へと運んでいく。 「ふーんだ。悪かったよぉ」 確かに、部屋が汚れて掃除をするのは他でもない。屋敷の家事一切を取り仕切っているこの使い魔の少年ダストなのだ。 バカ聖獣と言われたのは気に食わなかったけれど、ほんの少しだけ申し訳ないという気持ちになったのか、リュカは暴れるのをやめて大人しくなった。 「ねえ。それよりレイは? おれが起きた時は、もう居なかったんだよ」 置き去りにされたことがつまらないのか、リュカは口を尖らせる。 ダストはちろりと小悪魔めいた視線をリュカに投げると、意味深な笑みを佩いた。 「レイフォード様は深夜に突然お出掛けになったまま、まだお帰りになってない」 「えーーっ!? ひとりで夜の散歩に行ったの? ずるいや」 「……何でいつもおまえと行かなきゃいけないんだよ。レイフォード様は、僕のご主人様だぞ」 再びじたばたと暴れる小動物を、ダストは絞め殺してやろうかと思いながら、たっぷりと湯を張った洗い桶に放り込んだ。 「それにおまえが一緒に居たら、食事が出来ないじゃないか」 「えっ? 食……事……?」 きょとんと、リュカのまんまるな瞳がさらに大きく見開かれる。 夜の散歩に行って食事!? ヴァンパイアであるレイフォードとその言葉とを結びつけると、答えはひとつしかないような気がして、リュカはぶるんと体を震わせた。 「嘘だっ。レイはそんなことしないぞっ!」 友人を穢されたような気がして、リュカは烈火のごとく怒ってダストに飛び掛かる。 びしょ濡れのままとびかかられて、ダストは慌てて身をそらせた。 「レイフォード様はヴァンパイアなんだから、人を襲うのは当然のことじゃないか。おまえが水やミルクを飲むのと一緒だよ。何を夢もってるんだか」 ふふんと意地悪そうに唇を吊り上げて、ダストはリュカを見やる。 本当は主人であるレイフォードが何をしているのかなんて、自分にも分からなかったけれど、いつもご主人様を独り占めにしているこの小憎らしい聖獣をいじめてやろうと思った。 「だって、レイからはそんな邪気も毒気も感じられたことないもん。おれは聖獣だから、もし誰かを襲ったりしたら、あとに残る邪気でわかるんだっ!」 負けじとリュカは言い返し、ぶるんと大きく身震いをして、自分の純白の身体にたっぷりと含まれた水飛沫を意地悪なダストに振りまいてやった。 「何すんだよ、バカ聖獣ーー!!!」 もう我慢できないというように、ダストは思いっきり牙を向いてリュカに襲い掛かった。 純粋に力でいえば人型のまま喧嘩した方が有利だろうに、ダストは憎らしい聖獣と同じほどの大きさである本性に立ち戻る。 レイフォードの影響を受けているせいなのか。それとも、もとからそういう性格なのか。何のかんの言っても邪悪には徹しきれない、ダストの生真面目さだ。 「……いつもいつも、バカみたいなじゃれあいをしてるな。うっとおしい」 いつものごとく取っ組み合いのけんかを始めていた二人に、不意に冷たい声が浴びせ掛けられる。 二人が驚いて振り返ると、いつのまにか部屋の入口に寄りかかるようにレイフォードが立っていた。 「これ以上うるさくするなら、捨てるぞ」 いつになく不機嫌そうな声だった。 深紅の瞳は冷え冷えとした眼光をたたえ、蔑むようにじっと二人を見下ろしていた。 「じゃれてるわけじゃないや。ダストが……レイは人を襲いに出掛けただなんて嘘吐くからっ!!」 「ふん。なにを根拠に嘘だなんて言い切ってるんだよ、おまえは」 ぷくりと頬を膨らませて地団太を踏むリュカに、レイフォードは馬鹿にしたように眉を上げた。 「だって、レイからは他の魔族が持ってるような邪悪な気配がしないもん。ぜんぜんヴァンパイアっぽくないし。だから俺はここにいても平気なんだからさっ」 リュカはにっこり笑ってそう断言すると、いつもの定位置である青年の肩に座ろうと駆け寄ってくる。 「……ほぉ。だったら、今は俺に近寄らないほうがいいんじゃないか」 「へっ?」 きょとんと目を丸くして立ち止まると、リュカは不思議そうに漆黒の髪の青年を見上げた。 レイフォードは深紅の瞳を細め、冷笑するように聖獣を見据えていた。 「どうしたのさ、レイ?」 何か怒らせるようなことをしたかな? そう考えながらリュカは、再びレイフォードのもとへと一歩を踏み出そうとする。 けれども ―― 何故か足が動かなかった。まるで何かに怯えるように、無意識のうちに体が小刻みに震えている。 はっと、リュカは目を見張った。 目の前にいる友人から、普段は感じられない禍々しさが吐き出されているような気がした。じわりじわりとまわりを侵食するように押し寄せてくるその気配に、身体の震えが止まらない。 リュカは、初めてレイフォードが怖いと思った。 大好きな友人のことをそんなふうに思いたくはないのに、本能的に恐怖を感じてしまうのだ。 その力は他のどんな魔よりも強いくせに、いつもどこか静かな気をまとっていたこのレイフォードが、なぜだか今日は刺々しく、明らかに深い闇の気配をその身にまとっている。 その気配は、聖獣であるリュカにとっては毒にもなりかねなかった。 「死にたくなければ、近寄るんじゃないよ。可愛い可愛い聖獣のリュカくん」 嘲笑するような極低温の声音と眼差しでそう告げられて、リュカは息を呑んだ。 今までにも同じようなことを言われたり、散々邪険に扱われたりもしたけれど、こんなにも冷たい口調と表情をしたレイフォードを見るのは初めてのことだった。 「もしかして本当に……人を襲ってきたの?」 いつもは能天気なリュカの表情が、くしゃりと泣き出しそうに歪められる。本能的な恐怖を抑えてひっしと見上げた友人のその襟元に、わずかな血痕が見て取れた。 彼が身に付けているのは黒衣なので分かりにくかったけれど、明らかにその場所だけ他の黒とは違う、赤黒い染みがあるのだ。 「服に……血が付いてるよ、レイ?」 「だから?」 ちらりと自分の襟元を見やり、そしてレイフォードは唇を吊り上げる。 「おまえには関係ないことだ」 小さな聖獣のまんまるの瞳に怯えの色を見出して、レイフォードは嘲るように言い放つ。 そうして染みのついた外套をばさりと脱ぎ捨てダストに放り投げると、まるで何事もなかったかのように自分の寝室へと戻っていった。 「れ、レイのばかやろーーーーーーーっ!」 たとえそれが嘘だったとしても。気休めに過ぎなくても。レイフォードの口から「そんなことはしない」と言って欲しかったのに……。リュカは涙をいっぱいに浮かべた目を怒らせて、大声で叫んでいた。 「それで、屋敷を飛び出してきたの?」 針で突付けば破裂するのではないかというほど頬をぱんぱんに膨らませる小さな聖獣に、金の髪の女性は首をかしげた。 月下に咲く花のように清楚な、けれどもどこか妖しやかな美しさを持つこの女性は、最近リュカがひとりで街に下りたときに知り合った友だちだった。 このザレードに越してきたばかりだという彼女……クフェラは、街の人間にレイフォードの悪い噂をたんまりと聞かされたあと、相手の善し悪しの判断は自分で決めるのだと、噂を一笑に付した。 偶然それを見ていたリュカは、レイフォードを悪く言わない人間がいるのが嬉しくて、思わず声をかけたのがきっかけだ。 「うん……。分かってるつもりだったんだけどさ。レイがヴァンパイアだっていうことは。でも、やっぱりそうだと思い知らされるとキツイなぁ」 リュカはそれまでの威勢をどこかへ放り出し、しょんぼりと背を丸める。 「今までに、あんな気配を感じたことなんかなかったのにさぁ……」 なぜ今日に限って、あんなに毒々しい闇の気配をまとっていたのか。それがリュカにはどうしても理解できなかった。 レイフォードと知り合ってからもう、100年以上は経つ。そのあいだに彼が人の血を望んだことなど一度だってない。それは、常に近くにいた自分にはよく分かっている。 ましてや、みずから進んで人を襲うことだってなかったのに ―― 。 「もしかしたら、人の血を摂らなくても平気でいられる限界だったとか。だって、ヴァンパイアが人の血を望むのって、私たちがご飯を食べるようなものなんでしょう?」 金の髪の女性は小さな聖獣を抱き上げると、慰めるようその背を軽くなでた。 「レイフォードさんはすごく強い魔族さんだから、きっと今までは大丈夫だったのよ。でも普通は血を吸わないと餓えちゃうんじゃないかしら」 ヴァンパイアが人を襲ったというのに少しの怖れも嫌悪も見せず、クフェラはくすりと笑う。その柔らかなことばに、リュカの表情がぱっと明るくなった。 「……あ。そっか。そういう考え方もあるよね。レイが人を襲うのなんていやだけど、死んじゃうのはもっと嫌だしなぁ」 言いながら、考え事をするように小さな腕を胸の前で組む。 「それに、きっとレイなら相手を殺さないで必要なぶんだけ食事を摂ってるんだろうし。しかも100年に一度くらいなら、人にちょこっと我慢してもらうしかないよねぇ」 とうてい神の使いである聖獣とは思えない物騒なことを呟きながら、リュカは一人納得するようにうんうんと頷いた。 レイフォードが遊びや酔狂で人を襲ったのではないという仮定は、リュカにとっては甘く美味な果実のようにすんなりと受け入れられ、沈んでいた心を晴れ晴れとさせた。 「レイが人に好んで害を加えるわけないんだよな。だって、レイは人間が大好きなんだもん。昔は大切な友達もいたみたいだし」 突然の出来事と闇の気配に動揺して友人を信じなかった自分の間抜けさを笑うように、リュカは明るい笑顔で断言する。 かのヴァンパイアはいつも意地悪だし、自分勝手で我が儘だけれども、その根底に暖かさが伺えたからこそ、自分はこうして100年もレイフォードの傍にいたというのに。 それを忘れるなんて、友だち失格だよなぁとリュカはぺろりと舌を出す。 「ふふ。レイフォードさんが君の言ってるとおりの人なのだとしたら、そうだね。でも……もしかすると、今までずっと君は騙されていただけかもしれないけどね」 「えっ? 何、クフェラちゃん?」 先程は自分を慰めたクフェラが、今度はからかうように、否、まるでいたぶるように静かに唇を吊り上げる。その表情の変化に、リュカは呆然と彼女の顔を見上げた。 「だって、いま君が言った『大切な人間の友達』って、レイフォード自身が殺したのよ」 くすくすと、クフェラは笑った。今までのやわらかな物言いはそのままに。けれども確実に毒を持った言葉をリュカに投げつける。 優しさの仮面を脱ぎ捨てたようなクフェラのその表情からは、明らかに悪意が感じ取れた。 「それは嘘だよっ! だって、レイは本当に大切そうだったもん。おれもどんな友人だったのか詳しくは知らないけどさ、その友達の話になるとレイはすごく悲しそうだ。おれだってレイの友達なのに……悔しいくらい、レイはその人間の友人が大好きなんだもん!」 自分にとってレイフォードは一番大好きな友達なのに、彼にとってはいつだってその位置には、もう亡くなっているという人間が居座っている。思い出には勝てないと分かってはいるけれど、それがとても悔しいと、リュカが思うほどなのだ。 そんな大切な存在を、レイフォードが殺すわけないじゃないか。 今までずっと優しい表情だったクフェラの態度の急変に戸惑いながら、リュカはヴァンパイアの友人の潔白を訴える。 「あらあら。随分と懐いているのね。でもねぇ、君に見せているその『素顔』が嘘なのかもしれないでしょう? 本当に強い魔族は、どんな邪気をも隠すことが出来るわ。邪気を隠して聖獣をだますことなんか、お手の物なのよ。……私みたいにね」 ひしひしとほとばしる禍々しい気配にリュカは驚き、あとずさった。レイフォードの時とは比べようもないほど強く禍々しい、それは闇の気配だった。 「……クフェラちゃん、魔族だったの……?」 「ふふ。もう少し優しいクフェラでいてあげようと思ってたけど、君がいけないのよ。彼の……人間の友達の話をしたりするから」 逃げ出そうとしたリュカを見えない手で掴み上げ、クフェラはにたりと笑う。清楚な花を思わせる彼女の美貌が、瞬時に妖しやかな印象へとすりかわったような気がした。 「この餌に、どんなふうに喰い付くのかしら。あの男は」 「レイ……」 これは、きっと罰なのだ。 大好きな友人と口ではいいながら、彼を信じなかった。そして本気でレイフォードを怖がってしまった自分へ……神が下された罰。 自分を締め付けるように満ちてゆく禍々しい闇の気配に気が遠くなりながら、リュカは後悔するように何度も友人の名を呼んでいた。 |
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