月に沈む闇
第三章 『微睡む月の影』
  


第六話

 紫炎から受け取った報告書に目を通しながら、エルレアは僅かに眉根を寄せた。北の町ギョクトで彼が調査させたというその内容からは、人々の間で不穏な気配を感じている者が多くなってきていることが伺えた。
「僕が視察がてらに訪れた際にはここまで表立った様子はないように感じましたが……たった2、3日の間に不安が高まったようです」
 ラディカは考えるように僅かに首を傾けながら、そう言った。
 確かに気になることがあったからこそ、部下数名に命じて詳しい調査をさせたのである。だがその時点ではまだ目に見えるような表面上のものではなく、単なる風聞に過ぎなかった。
 しかしほんの数日の間で噂は真実味を帯び、ギョクトの町の住人に不安を与える要因と変化したようだった。
「"魔物"たちが集団で町ちかくの泉に集まっていたという噂に始まり、ついにはそれが町中にも入って来たというわけだな」
 エルレアは虚空を睨み据えるように眦を上げると、硬質な声音を紡ぐ。
 カレンに代表されるように"魔族"と呼ばれる者たちは表面上は人間となんら変わりのない姿をしており、しかも大抵は美しい容貌をしている。
 けれども"魔物"は魔族とはその出生からして根本的に違い、巨大なコウモリや二つ首の狼など、外見がグロテスクなものが多いのが特長だった。
 また"或る影響"から気性も激しく、人に対しても友好的とは決して言えない。だからこそ五騎士や皇帝が常に細やかに注意を向けてきたのはこちらが主だ。
 しかしこれまでラーカディアストと魔物たちの相互関係に破綻は見えておらず、互いに約定を守り良好な関係が続いていた。
 今回も、ギョクトの町に現れたという魔物たちは特に町の人間に悪さをしたわけではないようだった。しかしその怖ろしげな外見は人々の不安を掻き立てずにはいなかったのだろう。
「今までは我らの要請を受け入れて決して町中には入らないでいたものを、なぜ突然に彼らは約定を破ったのか。そのあたりの変化の要因も、先程こちらで話題になっていた魔族の王のことにつながるのではないかと愚考いたしますが」
 醒めたようにも見える紫色の瞳に真剣な彩を浮かべて、紫炎は皇帝を見やる。その眼差しを受けて、エルレアは静かに頷いた。
「……待ちくたびれたのかもしれないな」
 魔族や魔物たちには『準備が整い時期が到来するまで』と言い含め、これまでラーカディアストがその行動を制限してきた。
 しかしエルレアが魔界……リンシアの封印を解き始めてから半年が経とうとしている。そろそろ痺れを切らしてくる者が出て来ても不思議ではないだろう。そう思うと、己の不甲斐なさに苦い笑みが浮かんだ。
魔物かれらを戦に参加させたのは王都シェスタ襲撃の時のみだからな。不満も溜まってきているのかもしれん。彼らの"カスティナへの恨み"は、尋常ではないだろうからな」
 グレイの双眸に強い意志を浮かべて、エルレアは意味深げに目を細める。そうして己の背後に控える魔族の青年をちらりと見やってから、自分に集まる三人の騎士の強い視線に刃のような笑みを返す。
「この紫炎の報告書の対策に関しては、私とカレンが直接に当たろう。だが、場合によっては紫炎。おまえに彼らを含めた兵を率いてカスティナへ出陣してもらうことも有り得る。心構えだけはしておけ」
「はい。いつでも御下命ください。我が『夜虹やこう』は以前より出陣を心待ちにしておりましたので、準備はとうに整っております」
 魔物を共に率いるというのは想定外だが、前々よりカスティナへの出陣を望んでいた紫炎ラディカである。己の私軍『夜虹』も同じく、そのことに否やがあるはずもなかった。
「あはは。よっぽど前回ひとりで置いてきぼりを食ったのが嫌だったみたいだね。紫炎はたいした戦好きだな」
「……あなたにだけは言われたくありませんよ、橙炎」
 からかうような同僚の声に、紫炎はちらりと視線を流して呆れ口調でそう応える。五騎士の中で最も戦好きの男が何を言うのかと、苦笑も浮かぼうというものだ。
「うん? 私は別に戦が好きというわけじゃないよ。敵を殺すことが好きなだけだからね。それが出来るのならば別に戦場じゃなくても良い。たとえば……皇宮内であったとしてもね」
 いけしゃあしゃあとミレザは言う。やんわりと微笑む翡翠の瞳は穏やかに。けれどもその眼光は狂気に近い。
 公爵家の嫡子としての典雅さと聡明さ。それと相反するように、敵を倒すことが快楽だと言い放つ橙炎の残酷さは、優しげな美貌の中に溶け込み共存している。その不整合さが在るからこその、ミレザ=ロード=マセルなのだとは思ったが、紫炎はわざとらしく肩をすくめ、大きく首を振ってみせた。
「そういうあなたの物騒な思考を頼もしく思っていいものか、それとも危惧すべきなのか。ときどき僕は迷いますよ」
「正しい判断だね」
 くすくすと、可笑しそうにミレザは笑う。
「まったく……。あなたのその性格がどうやって形成されたものか、子供の頃から見てみたいものですね」
 のらりくらりと相手の言葉を交わす橙炎の騎士に、ラディカは微苦笑しながら深い溜息をついた。自分のことを言われているというのに、まるで他人事のような風情なのだから、たいした神経の太さだ。
「…………」
 そんな二人の様子を眺めていた皇帝の表情に。ふと。小さな揺らぎが生じた。どこか哀しみにも似た色がその瞳にゆらりと立ち、けれどもすぐに掻き消える。
 それは、周囲に気付かせない程にほんの僅かな一瞬の変化ではあったけれど、確かに気が乱れていた。
「 ―― 戯言はその辺にしておくのだな、二人とも。五騎士同士のいつものくだらぬ戯れを、わざわざこの場で陛下にお見せすることもなかろうが」
 ふと、低く落ち着いた緋炎の声がゆうるりと部屋に響く。相手を威圧する黒豹のような琥珀の眼差しが、紫炎と橙炎にじっと注がれていた。
「ふふ。確かにそうだね。今はもっと大事なことを話していたわけだからね。―― 話の腰を折りました。申し訳ありません。エルレア陛下」
 くすりと笑んで、ミレザはゆったりと一礼してみせる。
 従兄であり臣下でもある男の優雅な謝罪に、エルレアはふっと口端を上げるように笑み返すと、毅然と静かに立ち上がった。
「いや、かまわない。もう話は済んだからな。―― カレン、皇宮に戻るぞ」
 それ以上の言葉が発せられることはなく、腕に絡むようにまつわってきた漆黒の外套をばさりと後に跳ね上げるように踵を返し、皇帝は颯爽と彩宮の外へと去っていく。そのグレイの瞳に浮かぶ眼光は強い覇気をまとい、既にいつも通りの輝きを宿していた。
 そのあとに付き従うように、カレンは五騎士に軽く目礼すると静かに部屋をあとにする。
「……さっき彼は、自分を冥貴人だと言っていましたね」
 エルレアとカレンの姿が見えなくなると、紫炎はぽつりとそう呟いた。
 一般には皇帝の寵姫と言われているカレンが魔族だということはもちろん承知しているが、どのような位置に在る魔族なのか、ラディカは正確には把握していなかった。
 冥貴人と言えば魔族の中で最も強く、その数は百人にも満たないと言われている稀種族のことであり、魔における貴族とも言える。
 その中でも生粋の冥貴人と呼ばれる者はさらに少なく、数えるのに両手で足りる程だと言われていた。
「しかも魔族の王と"同じ冥貴人"だと言っていましたよね。それなら……カレンは生粋の冥貴人ということではありませんか?」
 紫炎ラディカは、彩宮に残った二人の同僚へと問い掛けるように視線を巡らせた。
「そうであろうな」
 事もなげに緋炎は頷いた。橙炎も淡々とした笑みを浮かべてラディカを見やっている。その、あまりに落ち着き払った二人の様子に思わず紫炎は溜息をつきたくなった。
 炎彩五騎士の中でも年長組のこの二人は、自分や白炎にはもらさない機密を互いに共有しているように思えることが時々あって、いささか腹もたつ。
「……二人とも、知っていたんですね?」
「気付いていたと言ったほうが正しいかな」
 くすくすとミレザは笑った。緋炎とは二人で何度かその話をしたことがあったので、互いの見解が一致していることは知っていたが、どうやら紫炎は気付いていなかったらしい。そう思うと可笑しかった。
「でもカレンが自分で冥貴人だと白状したのは意外だったね」
「ふん。よく言う。おまえがそうするように仕向けたのであろうが」
 琥珀の瞳に呆れたような苦笑を浮かべて、緋炎は白々しく肩をすくめている橙炎へと顔を向けた。
「まあ、おかげであの者が魔族の王に近しい存在だというのが分かったがな」
 カレンがどんな出自の魔族であろうとエルレアの味方であることには変わりがないが、五騎士としては、皇帝の傍に在る者については素性を少しでも多く理解しておきたいという気持ちはやはり多少なりともある。
「陛下は、いったいどこでそんな存在と……カレンと出会ったんでしょうね」
 魔族の王と近しい"生粋の冥貴人"を忠実な臣下として従える人間。ラーカディアストの皇帝。普通ならそんな状況はありえないだろう。
 ラディカは興味深げに、橙炎の騎士へと視線を向けた。皇帝の従兄でもあり、最も付き合いが長い彼ならば何か知っているのではないかと思った。
「……さあ? 私は知らないな。いつのまにか。気付いたら彼女の傍にはあれが居たからね」
 翡翠の瞳をやんわりと細めて、微笑むようにミレザは応える。その口調はいつものように音楽的で、ゆるやかに流れる旋律のようであったけれど……どこか寂しそうな音にも聞こえて。紫炎は思わず、まじまじとミレザの顔を見つめてしまった。
「ん? 私の顔に何かついているかい?」
「あ……いえ。なんでもありません」
 この男に寂しいなんていう殊勝な感情があるとは思えないし、さっきのは自分の気のせいだったのだろう。やんわりとこちらを見返してくる橙炎の無駄に爽やかな笑顔に、ラディカは苦笑するように首を振った。
「とりあえず、今後は魔族や魔物の動向にこれまで以上の注意を払う必要がありますね。そのことは僕から白炎にも話をしておきましょう」
「そうだね。じゃあシロへの伝達は紫炎にお願いしようかな。私はイルマナから直接ここに来てしまったからね。そろそろ執務室に顔を出してやらないと、イェンスの眉間の皺が更に深くなってしまいそうだ」
 にこりと笑って、ミレザは優雅に両手を広げて見せる。
 イェンスというのは、橙炎の騎士が有する私軍『游絲ゆうし』の主席を務める男の名前だった。
 ミレザが実家の領地に戻って休暇を楽しんでいるあいだは彼に橙炎の権限の大半を委任しておいたので、イェンスは自分本来の仕事の他にミレザが処理するべき書類の決裁なども代わりにやっているはずだった。
「貴方は部下をこき使い過ぎなんですよ」
 いつも仏頂面をした橙炎の騎士の主席幕僚の顔を思い出して、思わずラディカは吹き出すように笑った。まだ若いのに、かの幕僚イェンス=アウメイダは常に眉間に深い縦じわが刻まれているのである。主人である橙炎に、いろいろと苦労させられているのだろう。
「心外だな、紫炎。あれは、もともとああいう顔なんだよ。私のせいじゃない」
 可笑しそうに応えながら、ミレザは悪戯っぽく片目を閉じて見せる。そうして軽く後ろ手に手を振ってから、ゆったりと五騎士の集う部屋から出て行った。
「 ―― 私もいちど屋敷に戻るが……おまえはまだここにいるのだな?」
「ええ。今日は自宅ではなく彩宮の執務室で仕事をするつもりなんです」
 黒いメッシュの入った金色の前髪を邪魔そうにうしろにかきあげながら、紫炎は小さく頷いた。
 さっき白炎にもそう言ってあるので、今日は一日この場所にいるつもりだった。少し冷静になって気が向けば、おそらく白炎はここに戻ってくるだろうと思うのだ。
「そうか。ならば、じきに軍務省から私宛に届く書簡をおまえに受け取っておいてもらおうか。リュバサ以外の征西の状況をまとめた報告書なのでな、先に目を通しても構わん」
「ええ。分かりました」
 紫炎の快諾を受けて、ルーヴェスタはあざやかな緋色の外套を払うように、身の丈ほどもある大剣を軽々と左の肩に担いで歩き出す。
 かつかつと硬い軍靴の音を響かせて横を通りすぎていこうとした緋炎の騎士の腕を、しかしラディカは強く掴んで引き止めた。
「緋炎。ひとつ、言いたいことがあります」
「……ほう? なんだ?」
 五騎士の中で最も常識的だと言われる紫炎ラディカが、非礼ともとれる今のような行動に出ることは滅多になく、ルーヴェスタは意外そうに目を細める。
「 ―― 以前から、僕や白炎が知らない"何か"をあなたと橙炎は二人で討議しているのではないかと思うことが時々ありました。それを今日、僕ははっきりと感じました」
 アメシストの瞳に凛とした表情を浮かべて、ラディカは静かに言う。その言葉に、緋炎の琥珀の双眸が深く研ぎ澄まされた刃のように鋭さを増した。
「僕も白炎も炎彩五騎士の一員のはずです。公務に関することで秘密をつくられるのは気分が悪いし、納得できません」
 紫炎はひとつ大きな息を吐き出すと、緋炎の騎士の圧倒的な眼差しに気圧されないように、じっとその目を見返した。
 クォーレスやマリルと別れて紫炎が彩宮に戻ってきた時、この部屋であたりまえのように交わされていた会話は、自分などにはひとことも報告されていない内容のものだった。そういう話をするために白炎を自分に追わせたのかと思うと悔しくもなる。
「紫炎」
 ふと、緋炎は切れ上がるような笑みを刻んだ。
「もし仮にそういう"事実"が在るのだとしても、おまえが知るべきことはいずれ知れる。物事には時期というものがある。ただ、それだけのことだ」
 あざやかに口端をつりあげて、緋炎は強い意志のこもる言葉を静かに放つ。その声は低く重く、紫炎の心に染み入るように響いた。
「……わかりました」
 深い呼吸と共に頷いて、紫炎は五騎士の主座である青年を見やる。
 心から納得したわけではなかったけれど、彼がそう言うのであれば、無理に聞きだすことはないのだろうと思えてしまう何かが、緋炎の言葉にはあった。
「足止めして、申し訳ありませんでした」
 掴んでいたその手を放し、目礼するように謝罪する。そうして無言のまま離れていく緋炎の、毅然と伸びたうしろ姿を見送ってから、ラディカは彩宮内にある己の執務室へと向かって行った。


「貴女が気を乱すなんて、何か気に掛かることでもあったかい?」
 人気のない静かな皇宮庭園内を歩きながら、カレンは背後から囁くように皇帝に声をかける。先ほど彩宮の一室で、彼女の気が一瞬乱れたことにカレンが気付かないわけもなかった。
「いや。柄にもなく感傷に浸りそうになっただけだ」
 自分を気遣う魔族の青年を肩越しに振り返り、エルレアは苦笑するように頬を歪めた。あの時の感情の変化は、自分自身でも予想外の出来事だった。
「急に父……先代の皇帝が居た頃のことを思い出してな」
 言いながら、苦笑したまま小さな息をつく。
 僅かに彼女の気が乱れたあの時、エルレアが見ていたのは橙炎ミレザと紫炎ラディカのやりとりだった。彼らの会話の中に、エルレアの心の琴線に触れるものがあったのだろう。
「そうか……懐かしいね」
 世界統一という覇道をつき進むラーカディアスト皇帝のもつ強靭な精神力の中に、ほんの微かに存在する脆い部分。それがいったい何なのか、カレンは知っていた。
 表層には現れない皇帝のそれを被い守るように、青緑の瞳がそっと微笑みを宿す。
先代皇帝ファレルが居た頃といえば、まだ橙炎も"普通"だった頃だね。あの頃は彼も少しは可愛げがあったんだけどな」
「……ふふ。カレン。その言葉、橙炎に聞かれたら殺されるところだぞ」
「まったく、今じゃ物騒な男になったものだよ」
 ため息をつくような言葉に、エルレアはくすりと笑った。彼女がこうして素に近い反応をするのは周囲に誰もいない時。カレンに対してだけだった。
「そんなことよりもカレン、おまえは魔族の王の一件はどう見ている?」
 表情にいつもの冷徹さを取り戻し、エルレアは凛とした眼差しを側近である魔族の青年に向ける。先ほど彼は『王はまだ目覚めていない』と言ってはいたが、それ以上の見解も聞きたかった。
「そうだね……さっき貴女が言っていたとおり、配下の者たちが王を目覚めさせようとしているのは確かだと思う。ただ、彼らがラーカディアストとの約定を破ってまで動こうとするからには、何か要因があるはずだ。たとえばカスティナ側の人間が一部の魔族に接触して、こちら側への敵対を促しているとかね」
 五騎士たちの前では言わなかったことを、カレンはさらりと言ってのける。エルレアは言葉を吟味するように天を仰ぎ、きつく唇を噛み締めた。
「もちろん、好んでカスティナの人間に力を貸そうなどという酔狂な魔族は居ないから安心していい」
 魔に属するものは、魔界リンシアを氷中に封じたカスティナ王国を怨みこそすれ、好意など欠片ほども持ってはいない。余程のことがない限り、魔族がカスティナにつくことはありえなかった。
「そう考えると、この時点でリュバサを貴女にもたらしてくれた碧焔の功は大きいかな。魔族を動かし得る可能性を持つ大きな"条件"を、カスティナから奪うことが出来たのだからね」
 静かな青年のその言葉に、エルレアは天を仰いでいた視線を地上に戻し、皮肉げに笑う。固くひとつにまとめられた濃紺の長い髪が、ゆるゆると頭の動きにあわせて振り子のように揺れた。
「本当に"それ"がリュバサに在るとは限らないだろう? まだ我々はリュバサの調査もしていない」
 現に魔族も魔物も不審な動きをとっている者が居るのである。先程のカレンの仮定を是とするならば、カスティナはそれを可能とする条件を持っているということだ。
「いや。碧焔の話を聞く限りでは、リュバサにあるのは確実だよ。でも……そうだね。確かにおかしい面もあるね。現在動いている魔族たちと"ハルヒ"の関連性は早急に調べておこう」
 皇帝の強い眼差しに応えるように、カレンの表情も穏やかな笑みを消して鋭さを宿す。
「ああ、頼む。その問題がクリアになれば使える政略・政策も増えるからな」
 ラーカディアスト帝国が突き進むために打てるが増えれば、それだけ自分たちの目指すものに近付くことも出来るのだ。
「ただ前に、進むだけだ」
 揺らぐことなくまっすぐに前を見据えたグレイの瞳が、凛とした覇気を周囲に放射する。その先に続くのが修羅の道であったとしても、迷いも立ち止まる意思も、彼女の中に生じる事など在り得なかった。


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2007.04.17 up