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4万HITのお祝いで 『湖底廃園』の竹原湊ちゃん から、レイの他にもう1枚。実はこれを頂いてました(*^-^*) ティアとルフィアの、ほのぼのらぶらぶミニ絵です♪ もうティアってば、魔術研の制服の上着をルフィアの下に敷いてあげてるんですよぉ(///) 本編ではありえないこのシチュエーション。もう〜〜可愛すぎです(ぽっ) 見せて頂いたときに「短編が書きたい!!」と思ってしまったので、UPするのが遅くなってしまいました。ごめんなさい。 すごーく感激です。湊ちゃん、幸せなイラストをありがとうございました!! |
ちょっぴりキャラの性格が別人はいってるかもしれませんけれど、 そこはご愛嬌ということで、楽しく読んでいただけたら嬉しいです(笑) 可愛いイラストのイメージを私の短編が壊しませんように……(><) |
「なんだ。ここにいたのか、ティア」 魔術研がその蔵書量を誇る図書館の、特別閲覧室で本を読んでいるティアレイルを見付け、アスカは苦笑するようにその前に立った。 さっきからずっと探していたのだけれど、まさか閲覧室にいるとは思わなかった。 図書館で資料などを借りてもその場で読むことはなく、必ず自分の研究室に戻ってからじっくりと調べ物をするのがティアレイルのいつもの行動パターンだったからだ。 「珍しいな、おまえがここで本を読むなんて」 「ああ。アスカか」 本に落としていた視線をふと上げて、ティアレイルは少し笑った。 「研究室に持っていくほどの調べ物じゃなかったから。……それで、何か私に用か?」 アスカの口ぶりから何か用があって自分を探していたのだろうと判断し、ティアレイルは話を促すように軽く首を傾ける。 「ああ。ショーレンが久々に向こうに行ってただろ? それがさっき帰って来たんだ。俺もあっちの様子を聞きたいし、このあと報告に立ち会う予定なんだけどさ。どうせならと思ってな、おまえを探してたんだ。一緒に行くだろ?」 アスカは楽しげに笑うと、紺碧の瞳を片方だけ閉じて見せた。 「……? 別にいいけど」 何事かを企んでいるようなアスカのその表情に、ティアレイルは軽く目を細めた。 「ショーレンの話以外に、何かあるんじゃないのか?」 「なーに言ってんだよ。おまえも向こうの様子が知りたいだろうなぁと、そう思ったから誘ってるんだぜ。邪推はいけないな」 いかにも心外そうに眉を上げ、アスカは腕を組むように後ろの壁に寄りかかった。その表情はめずらしく真摯で、疑念を挟む余地もない。 もしこれで幼なじみが何か企んでいたのだとしたら、大した演技力だ。そう考えて、ティアレイルは思わず苦笑した。 けれど、たとえそうだったとしても自分に害のあるようなことは決してないだろうし、確かに向こうの様子を見てきたというショーレンの報告は聞きたかった。 結局のところ、こうしてアスカを信じるのは長年つちかわれた信頼関係によるものなのだろう。 「分かったよ。それで、どこで報告を聞くのさ。科技研?」 「総帥の家だよ」 「……は? ロナ総帥の?」 「ああ。正確に言えば、ロナ総帥とルナ総統の家だな。今日は総帥たちは公休だから、家に来て報告しろだってさ」 にやりと、アスカは笑う。 「ばらばらと総帥の家に行くのもなんだから、みんなで集まってから行くことにしたんだ。ティア、先にエスタの公園に行っててくれよ。ショーレンたち、もういると思うしな。俺はハシモトも誘ってから公園に向かうからさ」 「……ああ。じゃあ先に行ってるよ」 なんでわざわざ公園で待ち合わせをしているのか不思議だったけれど、確かにばらばらと総帥の家に行くわけにもいかないだろう。 わずかに癖のある蒼銀の髪が風を孕んでさらりと揺れ、ティアレイルは立ち上がった。 「おうっ。俺もすぐ行くからさ」 図書館で借りた本を小脇に抱え、転移するではなくゆうるりと歩いていくティアレイルのうしろ姿を見送りながら、アスカはこみ上げてくる笑いをこらえるように、軽く咳払いをした。 エスタの公園は魔術研究所からほど近い場所にある小さな公園だった。 公園といってもブランコなどの遊具があるわけではない。大人がくつろげるような、緑に囲まれた静かな空間だ。 けれども平日のお昼過ぎという時間帯もあってか、人の気配はほとんどなかった。 ティアレイルがゆったりとそこにたどり着くと、公園の入り口に設けられた門のような柱に小柄な女性がひとり、寄りかかるように佇んでいるのが見えた。 それを見て、ティアレイルは軽く首をかしげた。その女性はよく見知った顔。科技研のルフィアだ。けれども、一緒にいるはずのショーレンがいない。 「ルフィアさん。ショーレンは一緒じゃないんだ?」 ティアレイルはゆっくりと近付いて、科技研きっての女性技師に声を掛けた。以前の自分ならば、進んで科技研の人間に声を掛けることなど決してなかったけれど、今ではもう普通のことだ。 人間変われば変わるものだと、ティアレイルは自分が少し可笑しくなった。 ルフィアは「えっ?」と顔を上げ、そこにいるのがティアレイルであると知ると、いささか慌てたように色違いの瞳を瞬かせた。 「ティ、ティアレイルくん!? あの、ショーレンはちょっと用事が出来たからあとから来るって。アスカくんが来てるはずだから先に行ってくれって言われたんだけど、まだ居ないみたいだから」 とびはねそうになる心を鎮めるように深く呼吸をしてから、ルフィアは状況を説明する。 「ふうん? アスカはセファレットを誘ってから来るよ。たぶんもうすぐ来るんじゃないかな」 ティアレイルは翡翠のような瞳をにこりと笑ませ、ルフィアの色違いの瞳を覗き込んだ。この、朝と夜を内包したようなルフィアの二つの瞳が、とても綺麗だと思う。 「ショーレンたちが来ているだろうから先に行けとアスカ言われたんだが、来ていたのはまだルフィアさんだけだったな」 お互いに先に行かされた事に対して何も疑問に思わなかったのか、ティアレイルはそう軽く笑っただけで、ルフィアの横に並ぶようにトンっと柱に寄りかかった。 そうして小脇に抱えていた本を開くと、アスカたちを待つ間に読もうとでもいうのか、ぱらぱらとページをめくりだす。 「ショーレンもアスカくんも……まったくもう」 ルフィアは、心の中でそう呟いた。 何も気付いていないティアレイルとは裏腹に、彼女はしっかりと、ショーレンたちの企みに気がついてしまった。こうして、自分をティアレイルと二人にさせようということなのだろう。 そう考えて、思わずルフィアは顔が火照るのを感じた。一度そう意識してしまうと、どうにか抑えようと思ってもなかなか鼓動は言うことを聞いてくれない。 このままじゃただの変な人じゃない。ルフィアはそう思いながら、必死で平静を保つように頑張った。 「……何の本を読んでいるの?」 努めて冷静に、ルフィアは自分の隣に佇む青年にそう声を掛けた。読書の邪魔をするのも悪い気がしたけれども、このまま無言でいたら跳びはねる鼓動が聞こえてしまいそうだった。 「え? ああ。植物の育成をたすける魔術の強化を図ろうと思って、少し調べものをね。聖雨を廃止してしまったから、いろいろと不便なんだ」 ティアレイルはひょいっと本の背表紙をルフィアに見せて苦笑する。そしてふと、何かに気付いたように軽く首を傾けた。 「ルフィアさん、どこか体調でも悪い?」 顔を紅潮させているルフィアに翡翠の瞳を近づけて、ティアレイルは心配そうに訊いた。 いつも毅然とした印象を持っていたこの女性技師が、なぜかいま隣でふわふわしたような気を放っていることが、ティアレイルは不思議だった。 「顔も赤いし、熱でもあるんじゃないか?」 どこまでもすっとぼけたことを言う魔術派の象徴に、はたから見ていたショーレンたちが脱力したことは言うまでもないけれど、ルフィアも思わず力が抜けてしまう。 「……体調は悪くないよ。大丈夫」 そう答えながらも、ルフィアはくらくらと目眩がするような気がした。しかもかなりの至近距離にティアレイルの顔がある。平静をたもつのも一苦労だった。 「無理はしないほうがいいと思うよ。とても平気には見えない」 しっかりとした己の意志を持って仕事をしている彼女は、他人に弱いところを見せたくないのかもしれない。今にもへたり込みそうな様子だというのに、それでも平気だと言うルフィアに、ティアレイルは仕方なさそうに笑んでみせる。 自分も他人に弱いところを見せるのは嫌いだから、その気持ちは分からないではなかったけれど、やはり友人が無理をしている姿を見るのもイヤだと思った。 いまのこのティアレイルの心の動きを、もしアスカが聞いたなら『それはいつものおまえのことだ!』と嘆きそうだけれども。 「待っているあいだは、どこかに座っていたほうが良い。そうすれば、アスカたちが来るまでに少しは落ちつくだろう?」 大きな誤解をしたまま、ティアレイルはあたりを見回して、そこから一番近いベンチへとルフィアを連れて行く。 そのベンチをふと見やって、ティアレイルは考え込むように俯いた。病人を休ませるには、このベンチは少し固すぎるし不衛生かもしれない。 そう考えて、おもむろに魔術研の白い上着を脱ぎ、ベンチの上に敷いてみる。これで少しは身体を休めやすくなったのではないだろうか? 「え……」 ベンチに敷かれた白い制服を見やり、ルフィアは硬直した。この上に、座れというのだろうか。そんなことをしたら、今でもじゅうぶん跳ね上がっている鼓動が、収拾のつかないことになる。 「あのね、だから違うんだってば。私は健康なんだよ」 ルフィアは慌てて否定するけれども、ティアレイルはにっこりと笑っただけだった。 「そうか? でも座ったほうがいい。立って待っているのは疲れるからね」 そう言って、ティアレイルは上着を敷いたその隣に腰を下ろす。軽く視線でルフィアにも座るように促すと、穏やかな翡翠の瞳をよく晴れた空に向けた。 そうなるとルフィアは立っているわけにもいかず、おずおずと青年の隣に腰掛けた。彼の上着の上に座ることで、さらに顔が赤くなるのは避けられなかったけれど ―― 。 「ここは、ちょうど陽だまりになってるんだな」 公園の木々の間から優しく降りそそぐ陽の光に、ティアレイルは空を見上げたままゆうるりと笑んだ。木漏れ日が集まり、ゆるやかな暖かさを持つ風がとても気持ちよかった。 本当にこの大導士は自然の息吹きを感じることが好きなのだろう。木漏れ日の声を聴くかのようなその笑みに、ルフィアはつられるように微笑んでいた。 「ほんと。木漏れ日があつまって、生命の歓びを囁いているみたいだね」 ルフィアが言うと、ティアレイルは驚いたように視線を空から彼女におろす。ちょうどルフィアはティアレイルを見ていたので、藍灰と琥珀に染まる色違いの瞳と、翡翠の眼差しがぴたりと合った。 「素敵なことを言うんだな」 くすりと、ティアレイルは笑った。 その表情があまりにも優しくて、ルフィアは思わず見惚れてしまう。 「ルフィアさんなら良い魔術研の導士にもなれそうな気がするな」 もういちど笑って、ティアレイルは翡翠の瞳を細めた。 「ありがと。でも私は科技研の技師であることが好きだから、いまさら転向は無理だなぁ」 にこりと穏やかな意志のきらめく笑みを浮かべ、ルフィアはティアレイルの目を見やる。 「そうだね。ルフィアさんには科技研がとても似合っていると思うよ」 こんなふうに自然の声を理解できる彼女の作った機械なのだと思えば、きっとこれからは嫌悪感なしに科学派の扱うものを認めることが出来るかもしれない。ティアレイルは本心からそう思った。 ルフィアはきょとんと目をまるくして、照れたように、けれどもとても嬉しそうに笑った。 「それにしても、アスカたち遅いな」 やおらティアレイルは立ち上がり、周囲の様子を見るように視線をめぐらせる。 近くからアスカたちの気配はするのだけれど、一向にこの公園にやって来ないのが不思議だった。 「本当。遅いよね」 ルフィアは溜息をつくように、周囲を見回した。ほんの少しだけ、このまま二人で話をしていたいような気もするけれど、やっぱり早く来て欲しいと思った。 もう今日は、一生分のどきどきを使い果たしたような気さえする。 そんなルフィアの願いが伝わったかのように、ちょうど通りの向こうからアスカとショーレントがこちらに歩いてくる姿が見えた。 「やっと来たみたいだな。……セファレットはいないみたいだけれど」 ティアレイルは軽く首をかしげ、公園内に入ってきたアスカたちを眺めやった。 「遅くなって悪かったな。ハシモトが見つからなくてさ。それで諦めてこっちに向かってる途中でショーレンにも会ったんだ」 アスカは紺碧の瞳に苦笑を浮かべ、かるく肩を竦めてみせる。 「さて。じゃあ、総統の家に『向こう』の様子を報告に行くとするか。報告が終わったら、ルナ総統が手料理をご馳走してくれるってさ」 ティアレイルと二人で話せるように計画した自分たちを、拗ねたような照れたような複雑な表情で見上げてくるルフィアに、ショーレンはくすりと笑って、軽くその肩を叩く。 もおっと、拗ねたよう笑ってから、ルフィアは仕方なさそうに息をついた。そして、いつもどおりのあざやかな笑顔がその顔に浮かんでくる。 「ルナ総統の手料理かぁ。それは楽しみだね。ルナ総統、料理うまいらしいから」 「ああ。楽しみだよな」 闊達な笑みを佩いてそう言うと、ショーレンはもう一度ルフィアの肩をぽんっと叩いてから少し前に出て、アスカに並ぶように歩き出す。 「……それにしても、あんなルフィアの顔を見て、その気持ちに気付かないティアレイルっていうのは、男としてどうなんだ?」 こっそりと、ショーレンはアスカに耳打ちした。 アスカは「はあっ」と大げさに溜息をつくと、嘆くように頭を振ってみせた。 「そう言ってくれるなよショーレン。あいつは魔術派の象徴としていろんな人間から、ああいう思慕や憧憬の眼差しを受け続けてきたからなぁ。ちっと疎くなってるんだよなぁ」 ちらりと、少し後ろを歩きながらルフィアと話をしている幼なじみを見やり、アスカはもう一度深い溜息をつく。 「まあ、少しは進歩した……と思いたいところだな。俺としては」 ティアレイルが時折ルフィアにみせる柔らかな眼差しに気が付いて、アスカは苦笑するようにひょいと肩を竦めた。 「うーん。今日は無駄な計画じゃなかったと思いたいよなぁ。まあ、俺たちがやきもきしても仕方ないしな。あとは成るように成れだ」 すぐうしろを歩く二人の間に恋のように甘いものはないけれども、どこか暖かい和んだ空気が流れているような気がして、ショーレンもかるく笑った。 春がいつやって来るかは分からないけれど、ゆるゆると暖かな陽だまりの中にいるような、そんな関係が続くのもいいかもしれない。 「なにを笑ってるんだ、アスカ?」 自分たちを見やる視線に気づいたのか、ティアレイルはふいっと顔を上げ、前を歩くアスカたちに不思議そうに翡翠の瞳を向けてくる。 ルフィアも、きょとんとショーレンたちを見上げている。 「なんでもないよ」 アスカとショーレンは互いに目を合わせ、そしてもう一度、くすりと笑った。 もしかすると、春の訪れはそう遠いことではないのかもしれない ――― そんな気がした。 『陽だまり』 Fin
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