※ 5万HIT感謝企画アンケート7位コンビ/ロナ&ルナ



『いつもの朝』


 小さな物音とともにさっと差し込んできた陽の光に、ロナは薄く目を開けた。
 開かれたカーテンの傍でやんわりとした冬の陽光が、見慣れたあでやかな笑みを照らしている。ロナは軽く苦笑して、むくりとベッドから身体を起こした。
「……寝過ごしたか。明け方まで本を読んでしまったからな」
 壁にかかった時計を見ると、既に午前の十時を過ぎていた。
「やっと起きたわね、ロナ。今日は大掃除をするって約束だったでしょ」
 くすくすと笑いながら、ルナは右手に持ったハタキを軽く振って見せる。
「ああ。そうか。年末だからな。自分たちの手で掃除をするんだったね」
 ウェーブのかかった金色の長い髪を高い位置でひとつに結び、トレーナーにジーンズというラフな格好をして、既に大掃除の準備万端といういでたちの妹に、ロナは独特の白い瞳を細めて笑った。
 普段はかっちりとしたスーツに身を包む科技研総統ルナの、今の格好を自分以外の人間が見たら目が飛び出すくらい驚くのではないかと可笑しくなった。
 まあ、自分とルナが一緒の家に居ることだけでも驚かれるだろうけれど。
「でもその前に、ご飯が食べたいのだがな」
 穏やかに言うと、ロナはゆうるりと立ち上がり身支度を始める。
「もちろんよ。ロナには換気扇や電器。それに天井とか。いろいろとやってもらわなきゃいけないんだから。美味しい朝ごはんを食べて、しっかりと力をつけてもらわないとね」
 一年ぶりに家の大掃除をするには体力をつけなくてはと、まことしやかに言う兄に、ルナは笑いをこらえるように頷いた。
「はは。いつも機械に頼っている年寄りには、こたえる仕事だからな」
 更に可笑しそうに白い瞳を笑ませて、ロナは軽く肩をすくめてみせる。
 いつもは科技研が開発した家庭用自動クリーナーがすべての掃除や洗浄などを行い、部屋を綺麗に清潔に保ってくれている。けれども、年に一度。年末だけは自分たちの手で掃除をして、心機一転新たな年を迎えようとルナがずいぶん昔にそう提案したので、ラスカード家では毎年暮れに大掃除をするのだった。
 掃除機などは当然使うけれど、出来るだけ"人の手"で行う。だからロナが魔術を行使して掃除するのも、もちろん禁止だ。
 たいていの場所はルナが手早く綺麗にやってしまうのだけれども、高いところの掃除だけはロナの役目だった。
「まったく、元気なお年寄りだこと」
 くすりと笑って、ルナは軽口を叩くロナの頬を軽く引っ張ってやった。そうしてからくるりと兄に背を向けて、軽やかに階段を下りていく。
「さてと。私は朝ごはんでも食べるかな」
 掃除に向かうであろう妹の後ろ姿を眺めながらゆうるりと微笑んで、ロナはダイニングへと向かっていった。
「……おや?」
 寝過ごしてしまったので一人で食事を取るのだろうと思っていたロナは、ダイニングに入って可笑しそうに目を細める。
 テーブルには二人分の朝食が、ほかほかと並べられていた。
「食べたら、掃除よ」
 あでやかに笑んだルナが、ティーポットを抱えてダイニングに入ってくる。
 ちょっといつもより時間は遅くなったけれど。
 これがラスカード家の、いつもの一日の始まり ―― 。



『いつもの朝』 おわり


ロナ&ルナに1票いただきました。ありがとうございました♪
そのコメントが「らぶらぶな兄妹」とのことだったので、こんな1シーンを書いてみました。……これって絶対兄妹には見えないですね(^_^;)
思わず「おまえたちは新婚さんかっ!」と自分で突っ込んでしまいました(笑)
でも、彼らはアカデミーから離れると普段はこんな感じです(笑)

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2003.12.29 up