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葉月りらさんが、あっちゃんとティアの幼い日を描いてくださいましたっ♪ うわ〜〜い。か、可愛いのです(*^-^*) 頂いたときはもう喜びで躍り上がりましたものっ☆ 無邪気なティアと、お兄ちゃんっぽいアスカの表情がとてもらしくて、 思わず微笑ましい気分になっちゃいます♪ りらさん、素敵なイラストをありがとうございました!! (残念ながら閉鎖されました) |
「あっちゃん、待ってよー」 道を切り拓くように、すたすたと前を歩く幼なじみを追いかけながら、ティアレイルはたまりかねてそう叫んだ。 地面にはたくさん草や木の根が絡み合い、思うように歩けない。そのうえ少し下り坂になっているので、転ばないようにと思うとどうしてもゆっくりになってしまうのだ。 自分と同じ条件のはずなのに、どうしてアスカはあんなに早く進めるのか、ティアレイルは不思議だった。 「大丈夫か、ティア?」 草の蔓とすべりやすい坂道に苦闘している様子の幼なじみにくすりと笑って、アスカはひょいっと右手を差し出した。 いちおう自分が先を行くことで、この悪路を通りやすくしているつもりだったけれど、やはり足場が悪いには違いない。 まだ十歳に満たないティアレイルにはちょっとキツイ道だったかとアスカは思った。 「うん。ありがとう、あっちゃん」 ティアレイルは嬉しそうにその手にしっかりと掴まった。この二歳年長の幼なじみは、何につけても頼りになるのだ。 「もうすぐ、秘密基地に着くからな。がんばれよ」 得意げに笑って、アスカはティアレイルの手をひくように再び歩き出す。 家から歩いて十五分ほど離れた場所にある小高い山。どんぐり山と呼ばれるその一画に、アスカが洞窟を見つけたのは三日前だ。 この二日間で、こっそり秘密基地の体裁を整えて、ようやく幼なじみのティアレイルを招待しようというのだった。 そうしてしばらく二人で歩いていくと、山の斜面にぽっかりと、木々の葉に隠れるように小さな闇が口を開けているのが見えた。 離れて見ると水がにじんだ染みのようにも思えるけれど、近づいてみれば、それが洞窟の入口なのだと分かる。 ティアレイルのような子供が少し屈んで入れるくらいの小さな穴。大人であれば、這うようにしなければ入れないだろう。 「入口は狭いけど、中はけっこう広いんだぜ」 アスカはわずかに腰を折り、にやりと笑って中に入っていく。ティアレイルはひとつ瞬きをすると、期待と不安が混ざったような面持ちでそのあとをついていった。 狭い入り口を潜り抜けるとすぐに、アスカの言葉どおり、そこにはゆったりとした大きな空間が広がっていた。 けれども、外の光がほとんど入って来ないため内部はかなり薄暗く、ほとんどその洞窟内の様子はティアレイルには分からない。ただ、どこからか柔らかな水の匂いだけが、ふうわりと漂っているように感じられた。 「暗くてよくわからないね。懐中電灯を持って来ればよかったなぁ」 初めから暗い場所に行くとわかっていたならば、家でそれなりの準備はしてきたのに。ティアレイルは残念そうに口を尖らせた。 いつもはそういう準備も万端なはずのアスカが、何故か今日は手ぶらだということもティアレイルは不思議だった。 「いま明るくしてやるから拗ねるなよ、ティア」 アスカはどこか楽しそうに幼なじみを見やり、そうしてちょいちょいっと手招きをする。 懐中電灯もランプも持っていないのに、どうやってここを明るくするのだろう? 不思議そうにティアレイルはアスカの隣に腰をおろした。 興味津々という幼なじみの視線を受けて、アスカはにっと笑った。 ちょっと見てろと言うように片目を閉じてみせてから、何かに集中するように真剣な面持ちになる。そうして、空気のボールをつかむように両手を軽く前に差し出した。 ふわりと、アスカの両の手の間に光の珠が現れた。 それが少しずつ大きくなり、洞窟を照らす明かりになる。 「う……わぁ……」 思わずティアレイルは感嘆の声をあげた。懐中電灯や家の電気などではありえない、優しいほのかな暖かさがその明かりには宿っているような気がした。 「すごいっ! きれいだねぇ。あっちゃん何をしたの?」 翡翠のような緑色の瞳を感嘆と好奇心に輝かせ、ティアレイルは幼なじみの顔を尊敬するようにじっと見た。 「魔術だよ。面白そうだから最近ちょっと勉強はじめたんだ」 アスカは得意げに笑い、親指で自分の背後を指し示した。 「親には内緒だから、この秘密基地で勉強しようとかと思ってさ」 光珠で明るくなった秘密基地の内部には、ダンボールで組上げられたような本棚が置かれ、何冊もの分厚い本が積まれているのも見えた。 「こんな光の珠だけじゃなくてさ、声を運ぶ『ことばの珠玉』とか、遠くを見る『遠視の水鏡』っていうのもあったりして、魔術ってけっこう面白いぞ」 「ふーん。それって録音機(レコーダー)や望遠鏡みたいなものなのかな。でも本当にすごいねえ。これが魔術なんだよね? 僕、初めて見た」 ティアレイルは大きな目をより丸くして光珠を見やり、更に感嘆したように溜息をつく。 「……だろうなぁ。おまえんちの両親は科学派の幹部だもんな。出来ればティアに魔術は触れさせたくないんだろ」 科学派と魔術派の仲が悪いことぐらい、子供でも知っている。アスカは軽く肩をすくめるように言った。 「でも、あっちゃんのお父さんだって科技研に連なる会社にいるんでしょう? お母さんが言ってたよ」 「だから、まだ内緒なんだよ。まあ、うちはおまえのとこみたいに厳しくはないけどさ」 にやりとアスカは笑った。 「あはは。そっかぁ。ねえ、あっちゃん。一緒に魔術の勉強してもいい? 僕もあんな光の珠を創ってみたいもの」 くしゃりと笑って、ティアレイルは幼なじみにお願いをする。 「いいよ。一人でやるより楽しいもんな。……じゃあ、おれが出来るとこまでは教えてやるよ。そのあとは、一緒に勉強な」 ぽんぽんと、二歳年下の幼なじみのやや癖のある蒼銀の髪を軽くたたきながら、アスカは破顔した。 「うんっ!」 嬉しそうに、ティアレイルは無邪気な笑顔を浮かべ、未知の力に対する憧れと好奇心でその翡翠の瞳を輝かせていた。 みつしりと絡み合った草の蔓を掻き分けながら、ゆっくりと這うように穴の外に出ると、アスカは軽く舌打ちをした。 「だいぶ暗くなっちゃったな」 とっぷりと日暮れた夜空を見上げ、そして背後の洞窟を見やる。 さらさらと幾重にも揺れる蔓にその存在を隠されるように、しんと山の斜面に開いた穴。一見しただけでは、そこに洞窟があるとは誰も思わないだろう。 アスカとて今回の任務がなければきっと、思い出さなかったに違いない。 ――― 誰もいない場所から子供の声がする。 そんなオカルトもどきの訴えが魔術研に寄せられたのは、つい1週間前のことだった。 とくに気にする必要もないような、眉唾物の話。けれども付近の住民は、何事か不吉なことが起こる前触れではないかと不安になっているという。 魔術研究所を何か他のものと勘違いしているとしか思えない、普段なら捨て置かれたであろうそんな訴えを、これまた普段はあまり仕事熱心とはいえないアスカが偶然耳にして、進んで調査の任に就いたのは、その場所が子供の頃に住んでいた町だったからだ。 「まさかこんなところに原因があるとは、誰も気付かないよな」 声が聞こえるという地点から少し離れた『どんぐり山』の洞窟から、かつて自分とティアレイルが置き去りにした『ことばの珠玉』を回収し終えて、アスカはくすりと笑った。 「今になって発動するなんてなぁ」 もう十数年も前に幼なじみと一緒に遊んだ場所。 当時、どんぐり山で事故が起こり、一帯が封鎖されたためにすぐ遊べなくなったので、今ではすっかり忘れていたけれど、こうしてここに立つと、つい昨日のことのように思い出されるから不思議だ。 初めてこの場所でティアレイルに魔術の存在を教え、そしてその後は一緒になっていろいろな魔術に挑戦したものだった。 「……懐かしいな」 アスカは晴れた夜空のような紺碧の瞳をわずかに細め、手の中に包むように虹色にきらめく小さな珠玉を見やる。 この『ことばの珠玉』を創ったのは、洞窟でのあそびを止める少し前のことだった。 二人でこの魔力の珠に声を封じ込めてみようとしたけれど、その時は上手く発動せずに、いっこうに自分たちの声は珠玉からは聞こえてこなかったのを覚えている。 そうして何度か挑戦しているうちに山が封鎖され、そのまま珠玉は洞窟の中に置き去りにされてしまったのだけれど……。 それが十数年もたってから発動するとは、面白いこともあるものだとアスカは思った。 「総帥にはなんて報告しようかな」 これは、自分と幼なじみとが子供のころに残した、未来へのタイムカプセルのようなものだ。それを正直に報告するのは、少しもったいないような気がした。 「ふ…ん。『魔術派の象徴ティアレイル大導士の子供時代の名残』だなんて言ったら、みんな大喜びしそうだけどな。……でもまあ、これは俺とティアで楽しむとしよう」 何か適当な報告書でも作って、あとはティアレイルの部屋に行こうと心を決めると、アスカはいたずらな笑みを浮かべ、大きく伸びをした。 この珠玉には、自分たちの子供時代が封じ込められている。懐かしい、けれども当時にすれば何でもない普通の会話や喧嘩。そんなたくさんの思い出たちが、そこにはぎっしりと詰まっているはずだった。 「ティア、こいつを見たらどんな顔するかな」 その瞬間を想像して、アスカは可笑しそうにくすりと笑った。 そうしてゆっくりと山を離れ、魔術研究所へと帰っていく。その途中にもう一度だけ、アスカは洞窟を……否、幼いころの思い出を振り返った。 あのころ、僕らは何者でもなかった ――― 。 |